「この生活を抜け出せるのは、一体いつなんだ…。」
日の当たらない炭鉱に潜り、ひたすら地面を掘り続けるのび太。食事と言えば、バターすらも塗られてないパンを、ただ栄養補給のために食べるだけ。
それ以外は早朝から日が沈むまで、休みなしの労働。正に過労死レベルを超えています。
深夜フラフラになりながら帰宅し、風呂に入力すらなくベッドに倒れ込む彼を見てこう思います。
「どうしてこうなった…」
国民的人気アニメとスローライフ感ある牧場シミュレーションがコラボレーションした『ドラえもん のび太の牧場物語』。体験版では優しい牧場ライフに対する期待でいっぱいでした。
しかし、製品版で私を待っていたのは過酷な奴隷体験ゲームです。
あれだけ希望を胸に牧場生活をスタートした私が、なぜ製品版で日の当たらない炭鉱でひたすら地面を掘り続ける事になったのか…。
その辺りを中心に本日はレビュー及び感想をお話していきたいと思います。
価格:6,588円
メーカー:バンダイナムコ
ジャンル:シミュレーション
プレイ人数:1人
オンライン:なし
暴力表現:なし
目次
美しく魅力的な世界
本作は人気シミュレーションゲーム牧場物語をベースに、ドラえもんのキャラクターやひみつ道具などをコラボレーションさせた作品です。
体験版での個人的な印象は馴染みのあるキャラクター達が登場する、ストーリー主導型の牧場物語といった感じで、全体的にポジティブなイメージを抱いていました。
発表当初はミスマッチなコラボ作品と言われていましたが、実際に体験版をプレイしてみると意外に違和感なく楽しめましたね。
特にゲームの雰囲気が素晴らしく、購入の一押しになったのは間違いありません。実際製品版を30時間遊んだ今でも、雰囲気においては相当上手く作りこまれていると感じます。
グラフィック、サウンド、人々の生活感…これらが上手く交じり合って、非常に心地よい世界観を楽しめるゲームになっていますね。
書き込まれた四季折々のグラフィックが美しい
これまで発売されてきた牧場シミュレーション系は、ドット絵の様にディテールがはっきりしていないものが殆どです。
しかし、本作は水彩画の様な独特なタッチで、細部まで書き込まれています。
体験版では春しかプレイできませんでしたが、四季折々の風景はどれも非常に美しいですね。季節ごとに日没時間や太陽の明るさも違いますし、秋になれば紅葉し、冬は雪が積もる。
季節それぞれでしっかり別のグラフィックが書き起こされているので、ゲームをプレイしてて飽きないのです。見下ろしの2Dのゲームでも、ここまで雰囲気を感じ取れるグラフィック表現ってできるものなんですね。
雰囲気に合った音楽と効果音
全体的にまったりした音楽が多いですが、決してゲームの邪魔にならない心地よいBGM達。ボサノバやジャズの小洒落た選曲が光ります。
ぼんやりと夕暮れに釣りをしてみたり、冬に寒い日に自宅で温かい料理を作ったり…常に音楽が優しく寄り添って癒しになっているのが良いですね。効果音は絵でかいたようなグラフィックをより具体的にします。夏のセミの音や波の音を聞けば気分は完全に夏休みです。
町の人たちの生活感を感じられる
本作にはドラえもんのお馴染みのメンバー以外に、ゲームオリジナルのキャラクターが20人近く登場します。
彼らはそれぞれに独自の生活リズム持っていて、仕事をする時間も寝る時間もバラバラです。例えば、釣りの餌を販売するシーフィーというキャラクター。
彼女は魚釣りが大好きで、店番をしているとき以外は海や池、川の近くに良くいます。そしてそんなシーフィーをお店の裏で、こっそり毎日見ているチックというキャラもいます。現実世界だと間違いなくストーカーで通報でしょう(笑)
このようにそれぞれの人物に行動パターンだけでなく、キャラクター同士の関係がゲームをプレイするうちにどんどん見えてくるのが面白い所ですね。
仲良くなれば彼らの表に見せていない心内を知る事ができますし、段々と一緒に暮らしているという情みたいなものも増していきます。
体験版ではドラえもんの同じものメンバー以外は、モブキャラっぽい印象でしたが、ちゃんと町の住民としての存在感を感じられるようになっているのは良かったですね。
牧場経営ではなく炭鉱夫こそ至高
雰囲気に浸るのを目的で楽しむ人に本作はピッタリとお話ししましたが、私はどちらかと言うとそこに当てはまらないタイプです。
のんびり雰囲気を楽しむといよりも、ドラえもん達とどのような絡みがあってストーリーが展開されるのか気になりますし、施設を拡張したり道具を揃えて快適にしたい気持ちでいっぱいです。
しかし、そんな欲を持った人間に待ち受けていたのは、癒しの牧場生活ではなく、過酷な炭鉱奴隷生活です。
欲を出せば出すほど、人らしい生活が失われていく。まるで昔話の教訓の様ですね(笑)
効率的にゲームを進めようとするタイプの人も要注意です。このゲームで効率を突き詰めると味気のない奴隷生活に行きついてしまうからです。
では、なぜ本作がそのようなゲームになっているのか。ここで少し理屈を解説していきましょう。
物を与える事で始まるゲーム
本作では、ドラえもんはじめとする町の人達の好感度が、イベントを起こすキーになっています。話を進めたいのなら、どんどん町の人たちと仲良くなっていく必要があるわけですね。
では町の人と仲良くなる方法は一体何なのか。それは至ってシンプルで、相手にとってメリットのある行動をする、それだけです。
物を贈るもそうですし、お店をやっている人なら、商品を買ったり仕事を依頼する事で好感度が上がります。逆に、毎日話しかけるだけではちっとも仲良くなれません。
とにかく、プレイヤーはのび太として町中の人に貢ぎまくって、好かれる努力が必要なゲームなんですね。
しかし、よくよく現実世界に当てはめて考えると、これはとんでもないことです。物をあげないと好いてくれないなんて、打算的過ぎませんか(笑)
例えば他のゲームで言うと『どうぶつの森』も物を贈ることで、好感度が上がって仲良くなるシステムを採用しています。
しかし、会話を重ねることでも親しくなっていくのは実感できますし、相手からも逆に贈り物を渡されたりして、あくまで対等な関係を演出しているんですよね。
その点、このゲームはどちらかと言うと、せくせく貢ぎものを贈って仲良くしてもらう印象が強いです。物を献上しないとゲームも進まないし、ひみつ道具も増えない。
もうこのこの時点で奴隷的なシステムが構築されている、そんな気がするのは私だけでしょうか(苦笑)
人に好かれるためにはお金がかかる
ゲーム始めて最初の内はそこらに落ちている物を拾ってあげているだけでも、人々の好感度がどんどん上がっていく事を実感できます。それこそ浜辺に落ちている貝殻や虫をあげればいいので、そこまで身を粉にする必要はないですね。
しかし、好感度の10段階中の4段階に差し掛かったあたりで、落ちている物をあげているだけでは次のステップに全くと言っていいほど進めなくなります。
では、町人にそこから更に好かれるために何をすればいいのかと言うと、相手の趣味嗜好に合った大好きなものを贈るという事です。
ただ、これが厄介なのは、町の人たちの大好きなものを作るためにそれなりの設備投資が必要なんですよね。例えば、うどんをプレゼントしようと思ったら、キッチン付きの家に改装して、調理道具を買って、食材も購入したり育てる必要性が出てきます。
しかも各キャラクターでバラバラの趣味嗜好がある上に、物価が高いので設備を整えるのが本当に大変で(汗)
もう、私の様なゲームをどんどん進めたい人間は兎に角「金!金!金!」と、お金に飢えてしまう。そんな状況におちいるゲームになってしまっていますね(笑)
儲からない農業、だから私は転職した
では、実際にお金を稼おごうと考えた場合どうするのかについてお話ししましょう。
本作では、牧場で野菜や牛、羊を育てる以外にも…魚を釣る、森で木を切るなど、本作では様々な選択肢が用意されています。
ただ、このゲームのタイトルには「牧場物語」という名前が付いていますからね。多くの人がまず牧場メインで仕事をして、他の仕事を副業にするというスタイルでゲームを始めるのではないでしょうか。
私もそうです。毎日せくせく野菜の面倒を見て、空いている時間に他の仕事もする!
しかし、そのうちに気付くのが「牧場の仕事から得られる利益は、かなり少なくて非効率」という現実です。
しかも、何を買うにしても物価が高く、いつまでも設備を良くできない貧乏生活が続くわけですね。
一方で、採掘場に行って鉱石を掘る仕事は、農業とは違って遥かに効率よく稼げるということにも気づきます。どのくらい違うかと言うと野菜をせくせく育てて生活するのと、鉱石を掘って生活するのでは感覚的に3~5倍以上収入が変わってくるイメージがありますね。
ここまで収入の差の開きがあると、正直「農家なんてやってらんねぇ!鉱石掘るべ!」となる人は多いと思いますね。
他の牧場シミュレーションゲームでも、これまでも農家より炭鉱夫の方が儲かるというのはありました。何も本作だけが特別というわけではないので、ある程度こうなる事は想定はしていたのです。
しかし、まさかここまで農業が儲からないとは思ってもいなかったですね(白目)炭鉱夫をメインの仕事で、野菜や牛を育てるのは趣味レベルにとどめておく。そうしないと、まともに農具も設備も良くすることができません。
設備が充実しなければ町の人たちの好感度を上げられず、話も一向に進まないのですから。早く物語を進めたいという人は、今すぐ鉱石を掘りに行くべきゲームなんです!
昼寝よりも美味すぎるパンとクッキー
本作では原作再現なのか、のび太の体力が低めに設定されており、連続して作業をしていると過労ですぐに病院送りになります。
そうならないために、いつでも休憩できる「昼寝」という必殺技がのび太にはあります。
昼寝は自分で時間を1時間単位で設定でき、長く寝るほど体力が回復するようになっています。
ただ、この昼寝による回復量が少ないのが、一つネックなんですよね…。感覚的に3時間働いたら2時間くらい寝ないと、倒れてしまうような印象。このペースで働いていると全然仕事がはかどりません。
では、一体この仕事の捗らなさをどう解決するのか。そこで重要になってくるのが体力回復する食べ物の存在です。
このゲームでは、原材料を使って様々な食べ物を作って食べることができます。その中でも、バランスブレイカー級にコスパの高いのが、「パン」と「クッキー」です。
これらは安値で大量に生産できますし、体力もそこそこ回復できます。
そして、パンを沢山持って採掘場に籠れば、ほぼ倒れることなく掘り続けられますから、どんどん収入が安定してきます。そう、農業なんて馬鹿らしくてやってられないぐらいに…。
これに気付いた私は、パンをひたすら食べ続け鉱石を掘る奴隷の道に自ら進んでいきました。外の空気を吸うことよりも、ゲームを進めたいという気持ちには勝てません。
ただ、ひたすら地面を掘り続けていると「一体何やってんだろう…」と空しくなる瞬間は多々ありますね(笑)個人的には鉱石掘りよりも農業が効率的までは求めませんが、それなりに稼げるようにして欲しかったなという印象はありますね。
私がやっているのはもう殆ど「のび太のパンで採掘物語」ですから(笑)
控えめなひみつ道具たち
「いかに普通の牧場物語と差別化しているか」
これは私が本作に対して期待していたポイントです。
中でも、ドラえもんのひみつ道具がどこまで牧場生活を変えてくるのかは、大きな期待を寄せていた部分ですね。
自分の都合でいつでも自由に雨を降らせたり、合成した野菜が作れたり、そんな今までにないことができそうな気がして出来たらいいなと。
しかし、結論から言うとこのゲーム…ドラえもん要素で別ゲームになるどころか…
思った以上に普通の牧場物語です!
ひみつ道具全てを手に入れたわけではありませんが、30時間プレイして手に入れたものはどれも地味な効果のものばかりです。
例えば一度に9マス分の種をまけたり、どこでもドアで一瞬で遠くまで行けたりするなど、ひみつ道具自体便利は便利なんですよ。
これが22世紀の技術を使った農業や!#のび太の牧場物語 #NintendoSwitch pic.twitter.com/pVKwkpuU26
— にぃど@任天堂ゲー・モンハン・ユナイト (@switch_for) June 19, 2019
ただ、根本的な部分に関わるものではなく、あくまで作業を楽にしますよって言うレベルに踏みとどめているんですよね。そこは残念ながら、私の期待していたものとはちょっと違いましたね。
私の様にドラえもんコラボによっていつもと違う牧場物語を期待している人は、しっかりこのことを理解されてから購入した方が良さそうです。
しかし、逆に言うとこれは従来の牧場物語っぽいゲームが、やりたかった人には朗報かもしれません。本家牧場物語の様に結婚こそできませんし、主人公はのび太ですが、牧場物語の感じはしっかり楽しめるゲームになっています。
前述した炭鉱奴隷になってしまう部分も含めてですがね(笑)
まとめ
美しい水彩画風の風景、小洒落た音楽…この抜群の雰囲気に関しては、これまで体験した牧場シミュレーション系の中では断トツと言っていいでしょう。鉱山奴隷な遊び方をしている私ですら、心地よい雰囲気のお陰かゲームを遊んでいても不思議と嫌な印象はないですからね(笑)
体験版を遊んでみて、本作の雰囲気を気ままにのんびり楽しみたくなったという人にはかなり、オススメです。(100時間を優に超える様な長時間プレイになる覚悟は必要ですが…。)
一方で、牧場での農作業の効率がかなり悪いところもあって、私の様に効率的にストーリーを進めたい人はひたすら鉱山にこもりがちになってしまう点は残念ですね。できれば青空の下で牧場をメインにしてゲームを進める方向に、推奨した作りであって欲しかったというのが正直な意見です。
折角の良い雰囲気のゲームなのに、画面はいつも日の当たらない鉱山に籠ってしまうのはどうなんだろうと自分でも思いますからね(笑)。購入を検討されている方は、自分がまったり派かサクサク進めたい派なのか。その辺りを是非、しっかりと見極めてください。