今回ご紹介する『TRANSISTOR』は1980年代に流行したサイバーパンクを匂わせる世界観やリアルタイムなアクションRPGにストラテジー要素を混ぜたゲームシステムが個性的な作品です。
先行配信されていたSteamのユーザーレビューで『圧倒的に好評』の太鼓判を押されている作品という事もあり、今回かなり期待してSwitch版を遊んでみたのですが、その感想を率直述べると…
「万人が面白いものを目指すというよりも、兎に角製作者が作りたいものを目指している」
…という印象を強く感じた作品です。
どちらかというと万人が絶賛するというよりも、コアな人に猛烈に愛されるタイプでダメな人はダメ…といったように人によって合う合わないがかなり分かれる作品だと思いますので、当記事をご覧いただいている貴方にとって良き出会いになるかどうかを見極める参考になれば幸いです。
本作は『トランジスター』と呼ばれる剣を手にした女性歌手のレッドがネオン煌めく未来都市を舞台に、『プロセス』という暴走機械や『カメラータ』と呼ばれる謎の組織を相手に闘うSFアクションものです。
未来感あるデジタルな技術が溢れる一方でバイクのような現代のアナログな機械もごちゃ混ぜになった世界観はいわゆるSFの中でもサイバーパンクと呼ばれるジャンルに該当すると思いますが、ジャジー&メロディアスなサウンドと相まって全編漂うハードボイルドな渋い雰囲気が堪らないですね。
特にダウナーな感じの音楽が全編素晴らしくて、私が特にお気に入りなのはこの曲です。
こういったローテンションな曲が戦闘中も問わず流れていて、ゲームの持つ独特な妖しい雰囲気を醸し出してますね。
ゲーム画面は俯瞰でキャラクターから遠い引いたカメラですが、ディテールがしっかり書き込まれており、特にネオンや窓からこぼれる”光の表現の美しさ”によってこのゲームの世界が持つ独特の妖しさを演出しています。
私は普段Switchでインディーズの作品を遊ぶ場合携帯モード派なのですが、このゲームに関しては質の良いグラフィックや音楽をより堪能するためにTVモードがオススメです。
ゲームは斜め見下ろしのアクションRPGで、XYABボタンに自由に振り分けたスキルを使ってリアルタイムに敵を攻撃をしたり攻撃を回避したりするオーソドックスなものですが、一つ大きな特徴的なシステムを採用しています。
それはトランジスターの持つ特殊な能力で、一時的に画面を静止させストラテジーゲームの様に行動を選択・行動することができます。
言葉だけでは分かりにくいと思うので、実際にどんな感じか画面で見ていきましょう。
まずはZRボタンで発動させ、時間を止めます。(プランモードと呼ばれる状態に移行します)
時間制限は特にありませんので、落ち着いて攻撃や移動をこれから選択していきます。
例えば…移動をするとこのように…
レッドのこれから動く軌跡が描かれます。
それと同時に画面上のバー(赤枠)に歩行マークが当てが割れているのが分かると思いますが、このバーのある分だけレッドの行動を割り振ることができます。
では、まだバーに余りがあるので、更に攻撃を選択していきます。
因みに行動はZLで1手ずつ巻き戻せますので、間違えても何度でも選択のやり直しできます。
一通りの行動が確定したらZRボタンで決定をします。
すると、時間が動き出し決めた通りの行動を高速でレッドは実行します。
戦闘中は相手も動き回っており背後を取るというのはなかなか難しいのですが、この能力を使えばこのように後ろから奇襲することも可能ですし、複数の敵をまとめてせん滅したり状況に合わせて戦略的に立ち回ることが来ます。
ただし、良い事ばかりではなくて消費したバーが時間経過で回復するまでアクションができなくなるデメリットもありますので、ある程度場面を考えて要所要所で使っていく形になります。
通常のリアルタイムなアクションと戦略的なプランモードをプレイヤー側で上手く使い分けて攻略する感覚は非常に独特で、アクションゲームのスリルとストラテジーゲームの頭脳戦の面白さを上手く共存させています。
本作はアクションのカスタマイズも豊富で、『ファンクション』と呼ばれるチップを組み合わせてアクションスキルを構築し、プレイヤー独自の戦法を生み出すことができます。
ファンクションは物語を進めていったり、レッドのレベルを上げる事で新しいものがどんどん追加されていくのですが、これらの中から好きなものをXYABボタンへとセットしていきます。
更にXYABにセットしたファンクションに対して、下の画像の様にサブのファンクションをセットして性能に変化を与えることも可能です。
これによって例えば至近距離にしか飛ばないものが遠距離まで飛ぶようになったり、ファンクション同士の組み合わせによってアクションスキルに変化が埋まれ、色々な戦略が立てられるわけですね。
自分が戦いやすいファンクションの組み合わせを見つけたり、行き詰った時にどんなファンクションが良いのか考えたり…カスタマイズを試行錯誤するのが好きな人にはこのシステムはかなり魅力的ですね。
戦闘システムやカスタマイズにおいて自由度が高い一方で、ゲームの進行はほぼ1本道で探索要素などもありません。
ひたすら真っすぐ進み、イベント戦的にカッチリ組まれた敵との戦闘を何度も繰り返していきますので戦闘を回避したりすることもできないかなりリニアな作りになっていますね。
クリアまでのプレイ時間は5~6時間と短めなのもあってガチガチなリニアな作り自体は特に気になりませんでしたが、敵の見た目のバリエーションが少ないのもあって避けられない戦闘が少しおっくうになる場面が何度かありました。
一応クリア後も能力引継ぎ有りのハードモードも遊べますが、結局1周目と同じ進行なので一回遊べば十分かな…という印象です。
魅力的な世界観やゲームシステムを採用された本作ですが、全体的に説明不足あるいは説明下手でそれらの魅力が分かりにくくなっているというのがひとつ残念なポイントだったりします。
物語も大枠はすごくシンプルなのですが、ハードボイルドな雰囲気の語りを見せようとしすぎたのか言葉選びが回りくどく、まるで難解なストーリーのように錯覚しそうです。
▲カメラータという謎の組織がなぜレッドを狙うのか…等ストーリー中の謎が色々語られるものの、ぼやけた表現で分かりづらい。
敵に倒されると装備しているファンクション(アクションスキル)を一時的に使用不可にされてしまうというペナルティも曲者で、ファンクションを復活させるポイント前に強敵がいたりすると詰んでしまう事もあります。(オートセーブなので初めからやり直しです)
▲HPが0になると装備しているファンクションを犠牲にして復活する。使用不能になったファンクションはステージ上に一定周期で置かれている端末にたどり着くまで復活させることができない。
基本的にこのゲームは「ライトなゲームユーザーにも分かり易く、遊びやすく作ろう」という意識が薄いので、普段インディーズの尖った作品を遊んでいない人が手を出すのは少し博打かもしれません。(運よくこのゲームとマッチングできればいいのですが…)
本作は娯楽としての面白さ以上に芸術性を重視した傾向が強く、ゲーム全体の雰囲気を好きになれるかどうかで評価が大きく変わってくると思います。
特にサイバーパンクな妖しい世界観を描くグラフィックとジャズをベースにしたオルタナティブミュージックのセンスは素晴らしく、↓のPVを見て本作に惹かれるような方にはかなりオススメですね。
▼公式PV
一方で、ゲーム初心者の方を突き放した説明不足な部分や、元々複雑でもないストーリーをまどろっこしい表現で難解にしているところ等ユーザーフレンドリーさに欠ける面がありますので、検討されている方はそこを念頭に置いての購入をオススメします。