Switch版『送り犬』レビュー・感想 ~ホラーで終わらせない!玉手箱の様なマルチストーリー~

本日は夏にぴったりな怪奇系テキストアドベンチャー『送り犬』のレビューになります。

本作はゲームクリエーター兼小説家として活動する飯島多紀哉氏の作品で、以前に携帯アプリや小説として作品化されているものを追加シナリオを入れてNintendo Switch向けにリメイクした作品となっております。

飯島氏と言えば一部シナリオライターとして参加した伝説のク〇ゲー『四八(仮)』がなまじ有名になってしまっていますが、『ONIシリーズ』や『学校であった怖い話』等シナリオに定評のあるゲームを作っていているクリエーターなんですよね。

本作は飯島氏がしばらく離れていた家庭用ゲーム機に返り咲く為に出したという所に自信作としての意気込みを感じさせますし、『送り犬』は他の媒体でも評価も高いので期待感を胸に今回プレイをしてみました。

テキストアドベンチャーの肝であるストーリーの致命的なネタバレには抵触しない様に記事にしていきますので、未プレイの方は安心して当記事をご覧いただければ幸いです。

スポンサーリンク

 

古典的テキストアドベンチャーなので物語の質に全てがかかっている

本作は古くは『かまいたちの夜』や『428』に代表されるようなテキストアドベンチャー(ビジュアルサウンドノベルと言う人もいますね)で、テキストを読み、途中に現れる選択肢によって物語が変化していくゲームです。

基本的にプレイヤーが介入できるのは選択肢を選ぶだけで後は絵や文字を見るだけですのでゲームというよりはストーリー分岐する小説を読むという感覚に近いですね。

▲選んだ選択肢によって物語が変化する。選択肢は特定のルートを見ることで再度プレイ時に増えたりと進行によって変化も。

最近のテキストアドベンチャーだとターニングポイントに後から自由に戻れる便利なものもありますが、本作はそういった機能もなくセーブデータを各分岐点で保存して後でまたロードをして別の分岐先のストーリーを読むという古典的な進行スタイルになります。

私も久方ぶりにこの手のテキストアドベンチャーを遊ぶのでセーブデータを大量に作っていくのに妙な懐かしさを感じさせられましたね。

因みにセーブデータ数は30個となり、十分な数があるように見えますが本作は選択ポイントが結構多いのでもっと数が欲しいですね。

エンディングも30以上ありますので全部フルコンプするにはなかなか大変ですが、主要なエンディングを見るだけであれば数時間で行けるボリュームで価格が1000円弱の小説を買ったと考えると妥当な値段設定ではないでしょうか。

 

現代を舞台にバラエティー豊かに分岐されるストーリー

本作のタイトルとなっている『送り犬』とは日本各地に伝わる伝承で、夜中に山道を歩いているといつの間にか後ろにぴったりと付いてくる犬の妖怪の名前です。

この『送り犬』は振り返ったり、その場で転げてしまった人を食い殺すという恐ろしい妖怪で、主人公はおばあちゃんの怖い話としてその話を伝え聞いていたという所から物語はスタートします。

この時点での私の最初の印象は『田舎を舞台に送り犬に追いかけられるホラーものかな?』と思っていたのですが、実際にプレイしてみると色んな意味で裏切られましたね。

本作の主人公美穂は関西大学の女子大生で一部展開によっては田舎へ行くものもありますが、全編都会を舞台にした物語です。

▲合コンに数合わせで参加した主人公美穂と合コン相手の仙田。物語は上京した都会を舞台にして冴えない女子大生の生活から始まる。

登場人物も怪しい老婆とかではなくて、見るからに遊び好きなビ〇チっぽい友人だったりな優男サラリーマンだったり普通~の現代人のステレオタイプが登場します。

そして本作が面白いのは彼らのキャラクター性もそうですが物語がプレイヤーの選択肢によって180度と言っていいほど大きく変化していく所にあります。

タイトルのイメージ通りの『送り犬』の恐怖を味わうホラーな展開もあれば、コメディタッチなホラーの香りが全くしないものがあり分岐先の物語が非常にバラエティ豊かなんですよね。

▲分岐によっては犬が主人公にも…。

マルチ展開を謳っておきながら正解を選ぶだけの事実上一本道のゲームは世の中には沢山ありますが、本作は全く異なるストーリーが詰まっていますので周回プレイも苦にならずしっかり楽しめるという点でもポイントが高いですね。

スポンサーリンク

 

生々しい表現を多用するもののそこまでの恐怖感はない

飯島氏のブログ『七転がり八転がり』にて”Switch版を作るにあたって原作の原文をそのまま規制することなく持ってこれた”との喜びが書かれていましたが、確かに今まで遊んだSwitchのどのタイトルよりも断トツで本作は生々しいテキスト表現が出てきます。

その一方で挿絵の登場人物は萌え系のアニメに出てきそうなキャラクターデザインという物凄いギャップを感じさせるのが何とも不思議な所ですが、相反するこの二つを混ぜることで結果的に面白いバランスを保っていますね。

料理で例える例えるならエビアボカド寿司とかサラダにフルーツを入れたりとかみたいに…最初物凄い違和感を感じるんですけど食べてみると意外にマッチしてバランスが取れてる…そんなイメージでしょうか。

ストーリーも分岐ルートによっては送り犬の恐ろしさを存分に見せつける様なものもありますが、挿絵のお陰で怖さが和らいでいてホラーというよりもファンタジーものに近い感覚で読み解けますね。

そして全体を通して遊んでみて心に残るのは、怖さというよりも登場人物の成長やどんでん返し等ストーリー展開の面白さの方が強いという事です。

本作は『怖がらせる』という事だけでなくゲームだからできる展開の多様なストーリーを『楽しませる』という事を目指して作られている、そんな印象の強い作品に仕上がっていますね。

 

『送り犬』の総評

ホームページの雰囲気やキャッチコピーから滅茶苦茶ホラー色が強いイメージがある本作ですが、ホラー一辺倒ではなくゲームだからこそできるバラエティ豊かに分岐するマルチストーリーを楽しむ作品です。

分岐先のストーリーそれぞれの品質の差は結構激しいものがありますし、中には突っ込みを入れたくなるような展開もあったりとシナリオの全てが素晴らしいというわけではありませんが、要所にどんでん返しやミスリードも上手く使っていて先が気になって一気に進めてしまうテキストの魅力は充分にあります。

兎に角怖さを求めている人にはやや物足りないかもしれませんが、ホラーテイストがスパイスの様に利いていて面白いストーリーを求めているという人にはオススメの作品です!


送り犬 メビウス公式ホームページ


 

スポンサーリンク