『WILL-素晴らしき世界-』Switch版 レビュー/感想

『WILL -素晴らしき世界-』はNintendo Switch/Playstation4/Steamにて配信されている中国発のビジュアルノベルで、神様となったプレイヤーが救いを求める人々の運命を組み替え導くというユニークなアイデアが組み込まれた作品です。

実際にSwitch版をプレイした感想をまず最初に率直に申し上げますと…

”面白いシステムを採用したけれどそれをうまく生かしきれていない。しかしそれでもストーリーの良さでしっかりとプレイヤーの心にじんわりと残る作品になっている”

…という事です。

具体的な内容はこれからお話しさせていただきますが、これからプレイする方の楽しみを阻害しないよう極力ネタバレなしで感想を述べていきますので、どうぞ最後までお付き合いいただければと思います。

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ゲームの概要

プレイヤーは「願」という少女の姿の神様として目覚めるところから物語は始まります。

目覚めた願は記憶の殆どを失っており、家来である犬の姿をした「イシ」に願が神様であることを聞かされると共に、神様の使命である「人々の救いの声を聞き、叶える使命」を教えられます。

本作では願に救いを求める人間が多数登場し、ある者は熱く燃える新人警察官、ある者は恋人を失い傷心した画家、ある者は好きな女の子を追いかけまわすハッカー等、登場人物の置かれた環境や歩んでいる人生は様々です(中には人間ではないネコも…。)

▲性別や国籍、人種も多様な登場人物たちのキャラクターも本作の魅力の一つ。

▲基本的に挿絵で出てくる登場人物がみな美男美女というところが実に中国のゲームらしい。

そんな多様な人生を歩む彼らから送られてくるのは「神様…どうかお救いください」という願いです。

そして、その願いは手紙に形を変えてポストに次々と投函されていきます。

▲メイン画面の左下のポストに手紙が投函される。手紙を受け取ると画面中央のフローチャートにその手紙の送り主のエピソードのアイコンが表示され読むことができる。

神様である願には特殊な能力があって送られてきた手紙の文章を入れ替えることで現実の人間の運命を変えることができます。

ですので、彼らの未来を変えるために綴られた物語の「文章の一部を上手く入れ替えて」導きましょうというのがこのゲームの流れになります。

因みに、文章の入れ替えは救いを求める本人だけでなく、別の救いを求める人間と交換することができます。

ただし、自由に手持ちの手紙の中から自分で選択して文章を入れ替えられるわけではなく、あらかじめ決められた手紙の中(手紙同士)で文章をどういう順番でどう並べるかだけを考えるようになっています。

運命を変えて上手く行けばそれぞれの物語は次のステップに進んでいきますが、救いを求める人々は疫病神に取りつかれているのではないかというくらい何度も様々な不幸と出会い、その度に願に救いを求めてきます。

▲人々を救う度にその人物のエピソードがフローチャート状に伸びていく。横の赤い線は手紙の文章を入れ替えを行った証。

何度もそれぞれの人物が願いをかなえた先に最終的にどんな結果に行きつくのか?という物語の結末を読み解いていく果てに何が待っているのか…というのもそうですが、人々の願いをかなえていくうちに徐々にベールが見え始める願自身の謎…なぜ記憶を失っていたのか…なぜ人を救う使命を与えられているのか…自分たちのいる世界は何なのか…という物語の核心に迫り結末へと向かっていくゲームとなっています。

 

ゲームシステムは面白いが…最終的に面白さには繋がっていない

本作の最注目ポイントとしてあるのが「手紙の文章を入れ替えて運命を変える」ゲームシステムです。

例えば人物Aが「男とぶつかる」→お金をスられてしまった…という筋書きがあるとします。

この「男とぶつかる」の文章を警察官Bの筋書きに移すことで、人物Aはスリの被害にあう運命を回避でき、また警察官Bもスリを捕まえお手柄になる…

このような形でプレイヤーが「この文章をこれと入れ替えたらきっとこうなるから上手く行きそう」と考察して解いていくパズル的な面白さを期待する人も多いのではないでしょうか。

確かに、ゲームの序盤は内容がシンプルで組み替える文章も1つ2つと少ないのもあって、文章の前後や登場人物の背景から推測しながら答えを解くパズルゲームのような面白さを体験できます。

しかし、中盤辺りから文章を組み替える数が増えていくのに比例してプレイヤーの推測では到底解けないような答えのものが増え始め、いつの間にか考えるのをやめて総当たりで文章を組み替えて正解を探す作業にシフトせざるを得なくなってきます。

例えるなら私たちが「走る」という事を連想する「車」を用意しておきながら、「その車で空を飛んで逃げる」というような我々の常識からは想定できない方向の答えを用意されているような感じで、プレイヤー側から推測で答えが出せない問題が増えていくのです。

全てがそのような不出来なパズルというわけではありませんが、そういう納得できない答えが増えていくにつれて「考えることが無駄。でもストーリーは気になるからさっさと適当に並べて当たりを引くかネットで攻略を見るのが吉。」という結論に達してしまったのが非常に残念ですね。

ここが上手くできていればゲームならではの体験として相当優れたものになったと思うと本当にもったいないですね。

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色彩豊かな物語は印象深く、ジワリと心に残る

ゲームシステムのお話についてはやや辛口になってしまいましたが、最終的に本作を遊んでよかったと思わせたのはストーリーの面白さにあります。

登場人物が多種多様な群像劇である所や複数の登場人物が絡み合い運命が交差する構成はスパイクチュンソフトの『428 ~封鎖された渋谷で~』からの影響が強く感じさせますが、428がリアル寄りのドラマ的なストーリーに対して本作は現代劇のアニメや漫画のストーリーに近い印象という感じで上手く差別化がされていますね。

ネタバレを控えるために詳しく書けないのが残念ですが、二重人格でもう一人の自分になると超人的に強くなるという中二病的な人物の話もあれば精神病の人物の重い話、女子高生の恋心や愛を描いた切ない物語等には「こんなの現実にはありえないよ」というフィクションも適度に取り入れて見てる側を楽しませてくれます。

▲シリアスなサスペンスものだけでなく高校生の切ない恋愛など物語は本当に多種多様。

勿論物語の中では様々などんでんがえしや衝撃の事実に何度も驚かされて最後まで先が読めない面白さもちゃんとありますし、そんな物語のエンターテイメント性の良さもあって進めていくうちにどんどん先が気になって私は本作の物語に夢中になっていったわけですが、物語が進むにつれてそれとは別の「救いとは何か」という問いかけのような本作の持つメッセージ性を同時に感じていきます。

人によって何を感じるかは変わってくると思いますので、是非ご自身で体験いただきたいと思いますが、ただ遊んで面白かったで終わるのではなく、何か遊んだ後にその人の心に染みる、心に残るものがある作品は非常に印象深く貴重な体験ではないでしょうか。

因みに、本作はローカライズが非常に丁寧にされており、海外の作品でありながら全く違和感なく日本の小説や漫画を読むように物語への没入することができます。

▲単語のTipsなども事細かに説明されているが日本語の表現として破綻しているものは見当たらず、翻訳の品質はかなり高い。

登場人物に中国人や韓国人が多いため名前が読みにくかったり、たまに声優のボイスが挟まっても中国語で理解できないというところは多少ありますが、物語の理解を阻害するものではなくまるで日本人が作ったように違和感なく物語を読めたのはこの品質の高いローカライズのおかげでしょう。

 

本作の総評

本作の人々の運命を文章の差し替えによって変えるシステムはアイデアとしても面白く、序盤は機能しており楽しめましたが、中盤から破綻が目立ち消化不良に終わっています。

しかし様々な登場人物とその人々に介入していく主人公「願」と「イシ」の物語はエンターテイメントとして楽しめるものだけでなくメッセージ性もしっかりと与えており、遊び終えたプレイヤーの心に残る作品として作られています。

▲人間だけでなく神である願とイシの物語の結末も是非見届けていただきたい。

クリアまでかかった時間は10時間強となかなかボリュームもある作品で1500円と考えるとコストパフォーマンスも良く、ストーリー目的のゲームを遊びたいという方にはオススメな作品です。

総合的に見ると3,000円でもおかしくない出来だと思いますし、中盤のパズル部分がもう少し緻密にできてプレイヤーがちゃんと推理して遊べるものになっていたら近年のビジュアルノベルを代表するゲームになり得たと思いますし、次回作があれば是非そのあたり期待したいですね。

それと、最後に注意点ですが…劇中に身体欠損や流血などのショッキングな表現が割と満載であったり、少し性的な表現もあるため、そういったものが苦手な方は注意ください。

 

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