先日各経済誌を中心に「任天堂がテンセントと提携し、Nintendo Switchを中国市場売り込む」というニュースが大きく報道されました。
これまでSwitchは中国の中でも香港のみでしか販売されておらず限定的な流通だったのが、これからは中国の最大手ゲーム会社テンセントが代理店となり中国全土への販売を開始する事になるそうです。
この報道を受けて任天堂株が急騰した所からも「中国市場でSwitchが更に伸びるだろう」という投資家たちの期待値の高さが伺えます。
しかしながら、私達ゲームユーザー視点でSwitchの中国進出に一体どんなメリット・デメリットが存在するかを今日は解説していきたいと思います。
ゲームに潜むチャイナリスク
『チャイナリスク』とは経済用語で、中国市場に進出した企業が「中国人の独自の文化・価値観」や「有無を言わさない一方的な国の政策」に振り回された結果、損をする危険性を意味します。
簡単に言うと、中国人には日本の常識が通用しないので、日本人が中国で商売すると痛い目を見る可能性がありますよって事ですね。
分かり易いところで言うと、ファストフード最大手マクドナルドの例があります。
チキンナゲットを生産していた中国の工場で、地面に落ちた加工中の肉を何食わぬ顔でラインに戻すという内部告発の動画が世界中に報道されました。
この事件が原因でマクドナルドは社会的信用を失い、一時大きく経営が落ち込んだという事件です。
これは正しくチャイナリスクがクリティカルヒットしたパターンですね。
こういったチャイナリスクはマクドナルドの様に中国に進出する”企業だけ”の問題というイメージもありますが、実は私達消費者にとっても他人事ではなかったりします。
なにせ今やゲームはグローバル化した時代。
日本で発売されていない海外のゲームを買ったり、ゲームを通じて世界中のプレイヤーと一緒に遊んだりは最早当たり前です。
日本と海外の境界はもはやあいまいになりつつあります。
そしてその先端を行くのがPCゲーム市場ですね。
FPSなどオンライン系のゲームでは、中国のプレイヤーと一緒になることが日常茶飯事です。
私もPCでもよくオンラインFPSを遊んでいて中国のフレンドもいるのですが、実際に中国のゲームユーザーと同じフィールドに立つことによって感じるチャイナリスク的なものを身をもって経験しています。
ここではいちユーザーである私が実体験を元に、ゲーマーが被るチャイナリスクについて具体的に説明していきましょう。
中国人チーターがゲームを崩壊させる
ゲーム好きの多くの方は既にご存知かと思いますが、チートとはゲームデータを改ざんしゲームで優位に立つ行為です。
殴られてもダメージを受けないとか、一発で相手を倒せるとかそういった類の卑怯な行為ですね。
そしてチートを使うプレイヤー、チーター人口が群を抜いていると言われているのが中国なんですよね。
※決して中国のゲーマーの皆さんがチートしているというわけではありません。中国の方には我々日本人以上にマナーを大切にされている優良プレイヤーも沢山いますので、そこは誤解なさらないでください。
実際今PC版の『APEX Legends』を遊んでみると痛いほどそれが実感できます。
APEXは今年配信されてから瞬く間に大人気になった、基本無料のバトルロワイヤルです。
しかし、配信開始から2ヶ月経った今では、PC版では中国のチーターやチートを販売する業者によって悲惨な状況に陥っています。
例えば、APEXでは自分が倒されると倒された相手のプレイを以後観戦できるようになっているのですが、明らかに「ウォールハック」や「オートエイム」などのチートを使って遊んでいる光景を何度も確認しました。
※壁の向こうを透けて見えさせるチートをウォールハック、自動で照準の狙いをつけてくれるチートをオートエイムと呼ぶ。
また、野良で組んだ相手がチート販売業者で、ボイスチャットを通じて中国語で「チート買いませんか?」と宣伝していたりというのも珍しくありません。
このゲームは3人でチームを組むのですが、自分以外の味方2人が業者とかになると、乾いた笑いすらでませんね(苦笑)
こういった話は、私だけでなくSNSやYoutubeでも良く話題になっており、PC版APEXを遊んだ人の多くが経験されているようですね。
そんな状況もあってかAPEXのPC版のストリーム配信者やプレイヤーが、あっという間に激減してしまったそうです。
一時期バトロワトップだった『Fortnite』をぶち抜いていたのが、もはや下火と言われている『PUBG』よりもプレイヤーが少ないと言われる状況まで落ち込んでしまっています。
因みに『PUBG』もチーターだらけになった結果プレイヤーがどんどん抜けていったクチですが、今ではかなりマシになっているそうですね。
理由ははっきりとはしていませんが、中国でのプレイ人口が減ったせいでチーターも減ったという説も。
もしそうなら何とも皮肉なところですね(苦笑)
Switchのゲームでもチートが盛んになる⁈
中国本格進出をせずともNintendo Switchでも実は既に『スプラトゥーン2』などでチート被害が報告されています。
https://twitter.com/LB_011209/status/1000050314630828033
いや~いるんですよ…どこの国にもこういうズルい事をしてまで勝ちたいという輩が。
中国人の人にチーターが多い多いと言われてますが、どんな国にもマナーの守れない人間は残念ながら存在しています。
とはいえ、普通にプレイをしててもチーターに実際に被害に遭ったというケースはそこまで多くないのではないでしょうか。
私は300時間くらいスプラ2はやっていますが、チート的な動きをするプレイヤーは見たことがありません。
「ハァッ⁈今のチート!絶対チートでしょ!」みたいな顔真っ赤にして自分の負けを認められずチートのせいにしたくなる時はありますけど(笑)
他のPS4のオンラインFPSとかもそうなんですけど、現世代の家庭用ゲーム機はPCと比べてるとはるかにチーターの人口が少ないですね。
私が考えるに、その理由は二つあります。
これらの理由がある以上、Switchが中国に進出したとしても今すぐは大きく何かが変わるというリスクはなさそうです。
しかし、もし万が一中国で任天堂とテンセントがSwitchをヒットさせた場合に話が変わってくるかもしれません。
Switchが沢山売れればSwitchのゲームのチートへのニーズが高まり、ハッキングもより盛んになり、スピードアップしていく可能性が高まります。
メーカーも対策を強化するでしょうが、現実問題チートを撲滅するのはほぼ不可能です。
(もしそれができるのならPC版のAPEXもPUBGも今とは違った事になっていたはずです)
その結果、私達は購入するゲームに対して「中国のプレイヤーとマッチングしないゲーム」を選ぶ必要に迫られます。
例えば『スプラトゥーン2』の様に国ごとにマッチングが分かれているオンラインゲームであれば、中国で販売されようとも中国のプレイヤーと一緒にプレイすることはありません。
チートが輸入されやすくなるリスクなどはありますが、さすがにAPEXのようなチートや業者だらけになるという事はないでしょう。
これはまだ安心して購入できます。
問題なのは日本国内サーバーがなく、アジア全体で共有するサーバーを使ったゲームですね。
海外メーカーのゲームは日本専用にサーバーを設ける事が少ないため、大体は一番近いアジアサーバーに繋いでアジアの色んなプレイヤーと一緒になって遊ぶ事になります。
もし中国のユーザー向けに別にサーバーが用意されなければ、そこに善良なプレイヤーに混ざってチーターたちも大量に流れてくる可能性はありますので要注意です。
PCゲームでは実際サーバーがどこにあるのかを考えて購入を考えたり、場合によっては他の地域のサーバーに行っている人も当たり前のようにいます。
遠方のサーバーに行くとラグが酷くなるので他のプレイヤーから嫌われたり、自分が不利になったりすることもありますがチートでボコボコにされるよりはまだマシ、という事ですね。
これはあくまでSwitchが中国でヒットしたケースなので、今の内から心配するという事でもないと思います。
しかし、実際に中国を巻き込んでビジネス展開されているPCゲームではこんな状況になっていて、Switchも今後中国でヒットをするならば、大なり小なりこういったことも起こりうる、という事は知っておいても損はないはずです。
※追記 2019/8/4
テンセントが発売する中国向け(香港以外)のSwitchに関してはテンセント独自のオンラインサービスを用意するという事が、テンセントから発表されました。
日本で売られているSwitchは基本的に任天堂がオンラインサービスをしていますので、中国向けのSwitchとはオンラインではつながらないという事になります。
ただし、『Fortnite』や『Arena of Valor』のような基本無料のゲームに多い、ソフトメーカーが独自にオンラインサービス展開しているゲームに関しては、それぞれの会社によって対応が異なると思いますので、それぞれで中国に繋がるかどうか確認が必要です。
ソフトラインアップが充実する?
ここまでネガティブなリスクの話題だったので、ここからはポジティブな話題に切り替えていきましょう。
Switchを中国市場に拡販する事によって私たち日本のユーザーにとってどんなメリットがあるのかと言うと、市場が拡大することで ソフトメーカーがSwitchにゲームをリリースする数を増やしていく という事ですね!
例えば2019年3月までにSwitchは世界で3400万台強販売しているわけですが、これが5000万、1億と増えてくるとします。
そうなるとソフトメーカーは「Switchにお客さんが沢山いるからゲームをもっと出そう!」とより力を入れるようになります。
任天堂も資金が増えればソフトを開発する人材を増やしたり、外部のスタジオにより積極的にゲーム開発の依頼ができるようになりますしね。
ハードが売れる事はソフトを誘致する上でも非常に重要なわけです。
そうした中で個人的に一番期待したいのが、今回中国でSwitchを販売するテンセントのゲームです。
今回の代理店契約に関してはテンセント自身が任天堂に「中国でSwitchを売らせてくれませんか」と提案したという話が出ています。
つまり、テンセント自身が「中国でSwitchは売れるんじゃね?」とビジネスチャンスを見出しているわけですね。
そんなテンセントは既にソフトメーカーとしてSwitchに『Arena of Valor』というゲームを展開していますが、これ以外にもテンセント自身が作っているゲームをSwitchに投入していく可能性が十分に考えられます。
しかもテンセントは自社でゲームを作っているだけでなく、グループ会社にはそうそうたるブランドタイトルを持った会社がいます。
MOBAの覇者『League of Legend』のライアットゲームズ、バトロワの覇者『Fortnite』のエピックゲームズ。
スマホアプリに目を向ければ人気の『Crush of Clans』などなど、沢山の有名なゲームを作る会社を抱えている世界一のソフトメーカーでもあるわけですね。
そう考えると、これほど強い味方はありません。
とりあえずは既に開発されている任天堂の『マリオ』『ポケモン』『ゼルダ』から発売していく事になると思いますが、テンセントが自社や傘下のゲームをどれだけ投入するのかという所に今後注目をしていきたいですね。
最後に
任天堂の古川社長は2018年度の決算報告における記者会見にて、テンセントを代理店とすることでSwitchを中国で販売する認可が中国当局から下り、今後はソフトの申請を行っていくことを発表しています。
中国政府は「流血」や「セクシャルな表現」「麻雀などのギャンブル」があるものはNGとするなどゲームに対して非常に厳しい審査を設けています。
昨年も『モンスターハンター;ワールド』がリリース直前で配信を中止させられるなど日本の企業が振り回されるケースも少なくありませんので、やはり慎重に事を進めて欲しいものですね。
中国でSwitchが大々的に流通されるのはまだまだ時間はかかりそうですが、どこまで任天堂のゲームが中国の人たちに受け入れられるか。
そして、私たち既存のユーザーたちにこれまでと変わらない(これまでよりもより良い)サービスを提供し続けられるのかを、いちSwitchユーザーとして見守っていきたいですね。