本日はSwitchでダウンロード専用ソフトがなぜこのように人気なのか、これまで任天堂とソフトメーカーが歩んできた歴史を振り返りながらその理由について考察する記事の後編となります。
前編を未読の方は是非以下のリンク先にてご一読の程よろしくお願いします。
▼前編リンク
”前編:ファミコンから始まっていた任天堂の挑戦”
Wii/DSの世代でダウンロード専用ソフトを広めた任天堂はさらなるステップを次世代機『NINTENDO 3D』にて踏み出します。
それまでダウンロードソフトは小規模であったり過去のレトロゲームに限定されていましたが、3DSからはフルプライスのゲームをダウンロード販売をスタートします。
容量の大きいギガバイト単位のSDカードが購入しやすい価格帯に下がってきた事や、ダウンロードカードをパッケージと同様に店頭で取り扱うサービスを始めたことで、パッケージで販売していたような大型タイトルもダウンロード版で買えるようになります。
▲任天堂のタイトルやサードパーティの大作などのダウンロードカードが店頭で購入可能に。
ダウンロードカードはパッケージと同様に小売店側で値引きができるため、ニンテンドーe-shopで直接ダウンロードするよりもお得な値段で購入ができます。
中古での売り買いを考えていないダウンロード派の方はe-shopからの購入だけでなくこちらのカードを購入してダウンロードしている方も多いのではないでしょうか?
私もその一人ですが、このカードのお陰で「パッケージよりもダウンロードは価格的に損をする」という心理的なマイナス面がかなり軽くなったイメージがありますね。
丁度iTunes等のプリペイドカードがよく宣伝されていて、形のないデータに対してお金を払うという事に違和感が無くなり始めたのも大きかったかもしれません。
3DSの時代まではゲームと言えば任天堂やソニーのゲーム機を買って遊ぶものという認識だったわけですが、3DSの普及を追い越す様に爆発的な勢いで新たなゲーム機となるスマートフォンが普及し始めます。
それまでも日本ではガラケーで簡易的なゲームを遊べたり、『ドラクエ』等の人気ゲームを携帯電話で遊べる様にリメイクされたものが遊ばれていましたが、やはりスペックだったり操作性の問題でゲーム機という認識は薄く、そこまで目立った市場ではありませんでした。
しかしApple社の4代目スマートフォンの『iPhone4』が一気に大人を中心に普及をし始めたことでタッチパネルを積んだ高性能なスマートフォンが一般家庭に広く行き渡ることになり、世の中の流れは一気に変化していきます。
アプリをダウンロードする『Apple Store』ではその頃には無料の便利アプリ等も充実し始めており、ゲームに関してもアプリ購入者の評判を見て購入できるという事で日本でも『アングリーバード』のような評判の良い海外製のインディーズゲームが大ヒットします。
一方で日本の大手ゲームメーカーは『ストリートファイター4』や『ケイオスリング』等これまで家庭用ゲーム機で培った開発力を生かしたアプリを配信し大変話題となりました。
しかし、タッチパネルでの操作性ではアクション性の高いゲームをプレイし辛く、発熱とバッテリーの問題などで長時間のプレイに不向きな事から家庭用ゲーム機と同じように『何千円も払ってリッチなコンテンツを楽しむ』という路線の難しさがささやかれはじめます。
スマホアプリは本格的で価格の高いものが受け入れられないためミニゲームていどのアプリで薄利多売をしていくのがベストなのか…という認識が生まれつつある中、あるひとつのゲームの爆発的ヒットがその認識を根底から覆します。
皆さんご存知の『パズル&ドラゴンズ』の超絶大ヒットはゲーム業界を大きく変えます。
基本無料で遊べるゲームで、ガチャを引いてキャラクターを出す…このスタイルはスマホとの相性が抜群で猫も杓子もパズドラ…といっていいほど大ヒットし、メーカーのガンホーは巨万の富を得て中小企業から一気に巨大企業へと成長しました。
元々課金によるマネタイズのゲームはガラケーのころから『ドリランド』等ありましたが、やはりゲーム業界に激震を与えたのはパズドラの存在が大きいでしょう。
当然これを見た大小問わず多くのソフトメーカーが模倣して一気に世の中に基本無料のゲームが広まっていきます。
スマホでもストレスなく遊べるフリック入力で行えるお手軽なゲーム性やキャラクターを集める楽しさと中毒性にゲームユーザーが夢中になり、現在では家庭用ゲーム機の2倍以上の市場へと膨れ上がっていくのです。
任天堂はこの辺りからソニーやセガなど同じ畑のゲーム機ビジネスのライバルではなく、スマホという全く別のところからやってきた存在によって大きな影響を受け始めていますね。
先ほどのパズドラの様な基本無料のゲームもそうですが、例えば逆転裁判等の様な任天堂ハードで販売されていたサードパーティータイトルがスマホでより安価で高画質で遊べる様に移植されはじめたことで「ゲーム機は要らない」というユーザーが一気に増え始め、任天堂に思いがけない逆風が吹き始めた時期になります。
スマホアプリから次々とヒットが生まれ、スマホでゲームを遊ぶユーザーが増えていく中で3DS/WiiUを主軸とした任天堂のゲーム機は暫く苦しい時期を迎えます。
任天堂が本来得意としていたライトユーザーの多くがスマホのゲームに夢中になり、サードパーティーの多くが家庭用ゲーム機よりも遥かに儲けのいいスマホのゲームにリソースを注ぎ始めた事や発売から年月も経ち性能的に厳しくなってきたことも重なって、3DSのゲームの販売タイトル数はじわじわと減少していきます。
据置のWiiUに関しては任天堂の据置機始まって以来の大苦戦に陥り、サードパーティのゲームはほぼ全くと言っていいほど発売されなくった状況を見た投資家やメディアなどから「任天堂はハード事業をやめるのではないか」と言われる程苦しい時代でした。
しかしそんな苦しい状況でも任天堂は諦めていませんでした。
次世代機NX(今のSwitch)に向けての準備に加え、『ニンディーズ』として小規模開発のインデーズタイトルをプッシュしていきます。
例えば『ショベルナイト』は海外のPCで大ヒットしたインディーズゲームで任天堂は同作の3DS/WiiU版のパブリッシャーとなり、Amiiboを作って発売する等異例の対応を行い、3DS版は全世界で50万本ほどのヒットを記録しました。
そして『ショベルナイト』の他にも3DSではこれまでの小規模開発ではありえない様な何十万という規模の数字を叩き出すダウンロード専用ソフトを複数輩出します。
例えば『キューブクリエーター』は『マインクラフト』のオマージュだったり、『にゃんこ大戦争』はスマホでも人気のアプリだったり、『アイスステーションZ』はYoutubeで人気のサバイバルゲームと当時のトレンドを3DSで楽しめるというコンセプトが共通しています。
スマホやゲーミングPC等所有できない子供たちに向けてその時スマホやPCではやっているゲームを安価で3DSに提供する事で秘かに大成功を納めていたのです。
Switchで急激にインディーズが売れる様になったと言われる事が多いように見えますが、実はもう既にこの辺りからインディーズや小規模タイトルが受け入れられている兆候がはっきりと出始めていたんですね。
ではなぜここでこれだけダウンロード市場が伸びたのかという理由についてなのですが、ここまでの経緯を見ていくつかの理由が考えられます。
・携帯ゲーム機(3DS)の持ち運べる利便性が小規模タイトルに合っていた。
・小規模タイトルを長年扱ってきたことで開発参画しやすい体勢が出来て来た。
・任天堂がしっかりとインディーズタイトルにスポットを当て始めた。
・DL版の購入への違和感を持たない人が増えた。
・スマホ/PCを持たない子供達にとって低価格で手に取りやすかった。
この他にもまだまだ理由はあるかもしれません。
突然変異でSwitchになって急にダウンロード専用ソフトが売れ始めたわけではなく、それまでの長い道のりで様々な試行錯誤や下積みを経て3DSで花開き始めていたというのが実際のところだったりするのです。
そしていよいよ任天堂は新しい時代の幕開け、起死回生となるための新世代ハードNintendo Switchを送り出します。
据置機と携帯機のハイブリッドハードとして世の中に送り出されたSwitchには様々なコンセプトが詰め込められていますが、Switchの総合プロデューサー(兼スーパーマリオオデッセイプロデューサー)の小泉氏はSwitchを産み出した発想について以下の発言をしています。
小泉氏:意識したのはゲーム人口の二極化。ここ数年で「気軽に遊びたい人はスマホゲームを、ゲームをやりこむ人はプレイステーション4やパソコンで遊ぶ」という状況になった。その両方の層に楽しんでもらえるゲームを考えた結果が、スマホと据え置き機のいいところを兼ね備えるという発想だった。
引用:東洋経済 https://toyokeizai.net/articles/-/200053
つまりはスマホのローエンド市場とPC/据置のハイエンド市場で真っ二つに隔絶されてしまった所に不在となっているその間の橋渡しの市場を確立させよう!と考えて作られたのがSwitchという事なんですね。
一方で、ゼルダシリーズのプロデューサー青沼氏はSwitchのロンチタイトル『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』の海外インタビューにて任天堂がSwitchでこれから何をすべきかをこのように語っています。
青沼氏:今は長い時間と膨大な予算をかけてゲーム開発をせざるを得ない環境にあります。そしてそれだけのコストをかけたゲームは失敗が許されませんので確実に売れる…保守的なゲームに偏ってしまい、失敗を恐れない挑戦的なゲームがどんどん減ってしまっているんですよね。私たち任天堂は小規模開発の挑戦的なタイトルも活躍できるような場所をいかに提供できるか…その仕組みをどう作っていくかも大きな仕事のひとつだと考えています。
この発言からも、インディーズタイトルのようにユニークで挑戦的なゲームをどうやって盛り上げていくかという事に任天堂が力を注いでいることが伺えますね。
実際Switchはほとんどのインディーズ開発者にとって十分な性能機能を持っており、尚且つPCや据置にはない携帯性やスマホにはできない大画面での遊びなどで大きな差別化、付加価値を与えることができる理想的な環境が整っています。
そしてそれにとどまるだけではなく任天堂は実際に様々な施策を行い、インディーズタイトルのPRをユーザーに対して積極的に働きかけます。
例えばSwitch本体にゲームニュースを配信してユーザーに告知したり、評価の高いものをピックアップしてその中身を詳しく紹介する等、自分から積極的にネットで情報を集めないユーザーにも目に届く様にしています。
他にも人気芸人のよゐこの動画番組を配信したり、低年齢層にも遊べそうなゲームは『ネコマリオタイム』等で紹介したりと色々な方法でインディーズに対するアピールを続けています。
こういった施策やSwitchの機能(携帯モードやJoy-Conのおすそ分け)との相性の良さなどが合わさってSwitchのインディーズタイトルへのニーズは一気に過熱していきます。
それはもう目を疑うような勢いで、例えば『Overcoocked』が発売から半年も経たず50万ダウンロードされるなど開発者の喜びや驚きの声が次々と海外のメディアやSNSなどに寄せられていきました。
そしてその声は更に新たなインディーズタイトルの呼び水となり、2018年の現在では毎週10本近いインディーズタイトルがリリースされるという驚異のソフトリリース数になっています。
しかし、こうなってくるとユーザー側も一体何を遊んでいいのかわからなくなります。
任天堂もこのインディーズが次々と雪崩れ込んでくる状況でその中から質の良いものや特にユニークなものをユーザーに届けようと『Indeie World』というプロジェクトを立ち上げます。
Indie WorldはウェブサイトやTwitter、Youtube等様々な媒体を通じてSwitchの本体機能や任天堂本体とは別の独立したインディーズタイトルのコマーシャルを押し進めています。
こういったネット上の活動に加えて『PAX』や『Bit Summit』、『東京ゲームショウ』等にもスポンサーとしてインディーズブースを設け、できるだけ私たちユーザーに少しでもインディーズゲームをSwitchで触れてもらう機会を積極的に設けています。
急速にダウンロードソフトが増えてきたSwitchの目下の課題はこの加熱した市場の熱をどこまで維持向上させられるか…この先の任天堂の闘いに注目していきたいですね。