『マリオテニスエース』レビュー/感想 ~テニスの配管工様は欲張り進化~

2018年のNintendo Switchの主役タイトルとして大きくクローズアップされ発売された『マリオテニスエース』はシリーズの中でも大きく変化した作品です。

その進化に多くの人が魅力を感じたのか当記事執筆時(発売後2か月)で既に国内30万本(パッケージのみ)を超える売り上げを既に叩き出しており50万本も射程圏内です。

初代以降30万前後で頭打ちであった『マリオテニス』のシリーズ最新作がこうして初代の100万本に次ぐヒットに向かっているのは何故か?その辺りを分析する意味でも今回レビューしていきたいと思います。

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2面性を持ったマリオテニスへ進化

『マリオテニス64』から続く本シリーズは作品ごとに様々な要素やモードを追加してきましたが、ベースであるテニスのシステムの部分に対してはこれまで大きく弄ることがなく続いてきたという印象が強いです。

これは怠惰ではなく、テニスの基本部分が既に初代の時点で完成されていた為、大きく根幹の部分を変えることはできなかった、変える必要性が無かった…というところがあると思います。

▲歴代のマリオテニスシリーズ。それぞれに独自のモードを追加する等作品ごとに特色は見せていたがベースの部分は64のものを改良するにとどまっていた。

実際『FIFAシリーズ』や『パワフルプロ野球シリーズ』等他のスポーツゲームを見れば、完成された基本部分は大きく変えないでグラフィックやシステムの細部を洗練させたり、モードを充実させる方向に進化させていく…というのはこの手のスポーツゲームでは当たり前の事だったりします。

しかし、前作のWiiU『マリオテニス ウルトラスマッシュ』がシリーズの中でも不評な上に売り上げも思わしくなかったのが引き金になったのか、Switchで大きく展開するチャンスと睨んだのか分かりませんが…本作ではテニスのゲーム性に大きくテコ入れさされています。

今までの「カジュアルな人もガチの人も皆で仲良く同じゲームを楽しみましょう!」という一本の路線で行くのをやめて、本作は多様化したユーザーそれぞれに合った遊び方を選択してもらえるようなゲームへの進化を強く感じさせます。

詳しくは後述しますが、簡単に言ってしまうと「今までよりも本格的な対戦ができるマリオテニス」と「今までよりもカジュアルに遊べるマリオテニス」…という二つの全く異なる方向性のマリオテニスをセットにして出したのが本作であるとイメージしていただくのが分かり易いかもしれません。

ですので、今回のレビューはガチ向けとカジュアル向け、この二つの側面からそれぞれ見た内容について一体どのようなものになっているのか分けてお話していきたいと思います。

 

駆け引き重視の本格的な対戦ゲームへの進化

元々本シリーズではショットの相性(ロブショットはスライスで返した方が良い等)にジャンケン的な駆け引き要素が組み込まれていますが、ガチな対戦を求めるゲーマーに訴求する為にはより深い駆け引きを!…という事で二つの大きなシステムを新たに導入しています。

1つは「エナジーゲージ」という格闘ゲームによくあるシステムで、溜めたゲージを消費して攻撃と守りの技として使用することを可能にしています。

ゲージを使った技は攻守の要になる為、「いかにして効果的に自分のゲージを溜めて使うか」、「いかにして相手に溜めさせず効果的に使わせないか」という格闘ゲームさながらの駆け引きをゲームの中に取り込むことに成功しています。

そしてもう一つは「テクニカルショット」という普通ではラケットが届かないボールに対してアクロバティックに飛び込んで打ち返すテクニックで、これによって逆を突かれたピンチをチャンスにできるという面白みが加わっています。

発売当初はこの「テクニカルショット」がお手軽過ぎて何でもかんでも「テクニカルショット」頼りなゲームが面白みに欠けるというところもありましたが、今はアップデートで修正されて「テクニカルショット」の乱発はリスクを伴うという本来の意図したものに近づいていた印象がありますね。

シリーズ本来の基本的な要素にこの二つのシステムを加えた事でゲーム性全体として大きく変わったのはまず、ラリーが続きやすくなったという点です。

「エナジーゲージ」を使った「加速」や「テクニカルショット」で今まで打ち返せなかった厳しいボールも返せるようになった為、慣れたプレイヤー同士の戦いはラリーが続き熱い緊張感のある試合になり易い傾向が生まれました。

しかし一方で集中力が欠けていたり相手との実力差があるとワンサイドゲームの状況になり易い実力差が出やすいゲームにもなっています。

任天堂は数年前まではどんなゲームにもカジュアル層ファーストでやってきたメーカーですが、このガチ寄りなシステムをゲーム内で「スタンダード」と呼んでいる辺り以前とは大きく意識が変わっているという片鱗にも見えて個人的には非常に興味深かったりしますね。

実際ネットなど見ててもいつもよりもガチな人たちがプレイしていたり、任天堂もイベントで積極的に大会を開くなどE-Sports的な楽しみ方がいつもよりもされているのを見て本作は一つのターニングポイントを迎えたような印象を感じさせます。

因みに…ですが、この二つのシステムを外した従来のシリーズ作に近い「シンプル」と呼ばれるモードも用意されていますので自分にちょっと「スタンダード」はガチガチで合わないという人はそちらでも一人用のゲームやオン/オフ対戦を遊ぶ事が可能です。

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よりカジュアルな直感型ゲームへの進化

前述した「スタンダード」のシステムが従来のマリオテニスよりもガチ寄りなのを見て、少し難しそうだなと感じる人やゲームに不慣れな人と遊ぶ場合もしっかりフォローしているのが本作の優れている点です。

最初に述べた通り本作はガチ寄りとはまた別の「今までよりもカジュアルなマリオテニス」として遊べる様にJoy-Conを使った体感操作の「スイングモード」が用意されています。

▲Joy-Conをラケットに見立てて振る「スイングモード」。

かつてWiiに発売された『WiiであそぶマリオテニスGC』というWiiリモコンを振って遊ぶ作品も出ていますが、GCにでた『マリオテニスGC』を改良した同作と違って最初からJoy-Conに合わせてゲームが作られている上にあの頃よりもずっとコントローラーのモーションセンサーも進化しています。

やっぱりWiiリモコンとJoy-Conでは感度に雲泥の差です!(とはいっても多少まだラグがあるのは否めませんが)

振り方によって掛かるスピンを変える等ショットの質を変えることもできますので、本物のテニスをやっている人はその経験を活かすことができますね。

▲ちょっとした運動にもなるのでストレス発散にも最適。

また、キャラクターの移動は自動で動いてくれますし(スティックを操作して自分で動かすことも可能です)、なんならボールを大きくして打ちやすくする事もできたりと小さなお子さんやゲームに不慣れな人でも振り方さえ理解できれば皆で遊べます。

これが思ったよりも良くできていて、接待用のゲームとしてはかなり重宝できる代物なので是非誰かと一緒にゲームを遊ぶ機会があるという人はお勧めしたい、そんな1本になっていますね。

ゲームはガチ寄りになればなるほど先鋭化してユーザーが絞れていくのですが、「スタンダードモード」でガチ寄りにしつつもしっかりとカジュアル層も「スイングモード」で遊べる様にしている事で本作の売上数字が伸び続いている一つの理由なのかもしれません。

 

1人で遊ぶやり込みについては充実していない

本作には1人用で遊べるモードがいくつか搭載されていますが、実はそれほど充実していないというのが正直な所です。

例えば今回PV等で大々的にプロモーションされている「ストーリーモード」ですが、あくまでチュートリアルと言える程度のボリュームで2~3時間程度でクリアが可能です。

▲密度は濃いので充実した体験はできるが何度も遊びこむようなやり込みはない。

今回新たに加わったシステムをギミックを使って楽しく(一部イライラ)習得できるように工夫がされていますのでチュートリアルとしては理想的な形ではありますが、以前の『マリオテニスGB』等のようにガッツリそれで遊びこめるのを期待してしまうとがっかりしてしまいかねないので注意です。

因みに発売当初は鬼門と呼ばれる様なポイントが有ったり、失敗した時のリトライが一々マップに戻されたりする等の不満点が有りましたが、アップデートでその辺りも修正されていますのでこれから始める人は充実したチュートリアルとして楽しめるのではないでしょうか。

その他「グランプリモード」やエンドレスでひたすらCOM戦を繰り返すモードもありますが、これといった報酬が無いため一人オフラインでやり込むモチベーションというのがあまりないのが残念な所です。

『マリオカート8DX』や『スプラトゥーン』みたいに一人用でやり込んでもパーツやギアが手に入るような何か報酬が用意されているだけでも良かったような気がしますね。

 

光る部分はあるが持続し辛いオンライン対戦

ガチ寄りになったシステムを使って楽しみたくなるのはやはり猛者たちが集まるオンライン対戦でしょう。

本作は2つのオンライン対戦の形式で遊ぶ事が出来ます。

1つはトーナメント式のタイプで1勝すれば1勝した人と、2勝すれば2勝した人とマッチングするようになっており最終的に5勝すれば優勝というシステムです。

勝利することで積みあがるポイントとは別にレーティングシステムもありますのでできるだけ腕前の近い人と当たるようなシステムにもなっていますが毎月リセットされてしまうのが痛い所です。

ただ相手の回線とキャラを見て対戦拒否ができるという点は任天堂のオンライン対戦モードとしてはかなり珍しいのではないでしょうか。

やはりハードの特性上か無線LANで安定していない回線の人が中にはチラホラいますので光の有線で遊んでいる身としてはできるだけ同じくらいの人とフェアに遊びたいという気持ちがありますので。

逆に自宅の回線の環境が悪い人は対戦を拒否されて同じように回線環境の悪い人とやらざるを得ない事は覚悟くださいという事にはなりますが…。

あと、これは欲しかったなと言うのはトーナメントとは別のフリーマッチでも良いのですが『スプラトゥーン2』の様なウデマエランクD~Xみたいなのが欲しかったですね。

▲『スプラトゥーン2』のユーザー維持の手法はどんどん他の任天堂のゲームも真似るべき。

レートという数字だけだと無機質でイマイチ自分の立ち位置や上達加減が分かり難かったりしてモチベーションが保ちにくいです。

今本作のオンラインを継続して遊ぶ動機の一つとしてあるのは毎月のキャラ追加のアップデートが挙げられます。

既に7月はノコノコ、8月はゲッソーと続き、来月の9月はディディーコングと順次月を追うごとにキャラが増えていきますので私もそれを機に定期的に遊ぶという形で遊び続けている感じですね。

因みに、気になるオンラインのバランスについてですが、最初はクッパjr.が最強でしたが弱体化されその次点だったワルイージが今は結構強い状況です。

完璧なキャラバランスというのはまず無理な話ですし、ある程度長い目で調整されていくという動きをしている以上はとりあえず次第点ではないでしょうか。(どんなゲームも程度の差こそあれキャラに性能差がある場合強弱はどうしてもできてしまうので…)

 

マリオテニスエースの総評

本作はガチ層カジュアル層両方それぞれに満足できるように複数のモードを用意した事が上手く機能して今まで以上に幅広い人が楽しめるマリオテニスへと大きく進化しています。

オンラインでの熱い駆け引きの対戦やオフラインで家族や友達とワイワイJoy-Conを振って汗をかく、この二つを両立させたゲームという点が多くの人に評価されて売れ続けているのではないでしょうか。

一方で1人用モードのやり込みやオンラインでのモチベーション維持に対する要素がまだまだ不足している印象が否めませんので今後のアップデートで何かしらその辺りを追加されるか、次回作でより充実したものになる様に期待をしていきたいですね。

個人的にはマリオテニスシリーズはあまりアップデート対応をするようなイメージはなかったのですが、本作から既に何度もアップデートを入れている
ところからちゃんと任天堂がマリオテニスを対戦ゲームとして育てようとしているのが分かって嬉しいですね。

やっぱり磨けば光るポテンシャルがまだまだ残っているゲームだと思いますのでこれからもプレイしつつファンとして見守って生きたところです。

 

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