『返校-Detention-』 レビュー・感想~切なくも儚いホラーADV~



タイトル:返校-Detention-
販売メーカー:PLAYISM
機種:Switch/Steam

こんな人にお勧め!

・アクション操作の楽しさよりも物語を読み解く事を楽しみたい人

・重く切ないストーリーに惹かれる人

ボリュームは?

・クリアまで3時間程度

・マルチエンディングだが道中の展開は変わらないのでリプレイ性は低い

気になる点は?

・ガチホラー、ゴアありなので苦手な人は避けた方が良い

・ロードが頻繁でやや読み込みが遅い

・謎解きや進行ルートの導線が弱くいたずらに迷う場面が多い

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返校 -Detention-は、台湾のインディーデベロッパーが開発したゲームで本国台湾で映画化も決まっている人気ホラーアドベンチャー。Steamで先行して配信されそのセンセーショナルな内容が話題を呼び、Switchでも配信されるや否やすぐにランキング上位に食い込む人気となった。私もその評判に乗っかり遊んだのだが、印象は零やバイオハザードの様な幽霊や化け物と戦うようなアクション性のあるホラーではなく、ゲームというよりもサスペンス小説や漫画を見る感覚に近いものだった。

プレイヤーを怖がらせるホラー要素の奥には60年代の白色テロ時代の台湾の重苦しさを垣間見ることができる。返校の外見は謎解き中心のホラーアドベンチャーだが核心にある強烈なメッセージ性を紐解いていく事がこのゲームのメインテーマだと私は思う。

当時の政治的背景等を孕んだ内容はフィクションであっても大手のゲーム会社では出せないような代物だ。ホラーのゴア表現もあるし、プレイ時間は3時間ほどでクリア後のリプレイ性もないに等しいので万人には勧めづらいが値段も千円ちょっとなので小説を読む感覚で何かやってみたいという人には強くお勧めしたい。世の中にはこんなゲームがあるのかと驚きを感じさせられるだろう。


ホラーゲームとしての評価

欧米風のビックリどっきり!なホラーとは異なりジメジメとした日本のホラーに通ずるものがあると思う。舞台は60年代の白色テロ時代の台湾の学校だがどこかその風景は昔の日本と共通していて親近感がわきやすい。

ただ、2Dの傍観者的な一歩引いた視点でプレイする為か映像の怖さというのは正直言って温い方だ。返校のレビューで怖い怖いと言われてるものは多いけど、3Dの『零シリーズ』と比べるとどうしても臨場感や表現力に劣るのであまり怖さには期待しない方が良い。

その代わりサウンドは抜群に恐ろしく仕上がっている。コツコツと廊下を歩く足音の反響や耳に残る不気味なBGMは生々しく響き、幻覚幻聴、現実非現実が織りなす映像に合わさり引き込まれる。もしこれが3Dのゲームだったら恐ろしくてプレイできなかったかもしれない。

PVでは大きな人影みたいなものに追いかけられるシーンがあるが本作ではそれらの幽霊と戦う対抗手段はない。幽霊が現れたらその場を離れるか通り過ぎるまでやり過ごすか…という選択肢だけ。このような逃避一辺倒なゲームは途中から同じことの繰り返しでダレる事が多いが、本作はプレイ時間の短さもそうだが接敵の頻度は少なめに抑えているので不満としては感じなかった。

どうやら返校は幽霊と遭遇し慌てふためくパニックを楽しむというよりも、常に漂う不穏な雰囲気に重きを置いているようだ。ヘッドフォンを装着して音と映像を合わせたときにグッと引き込まれるその世界観。心霊的ホラーの怖さに全編漂う暗黒時代の重さが合わさって独特の雰囲気を醸し出している。

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 アドベンチャーゲームとしての評価

返校はホラー要素が前面に出されているが2D横スクロールのアドベンチャーというのが本質だ。幻聴幻覚でおかしくなった学校の中から脱出するために探索してアイテムを集め謎を解きながら物語の核心に迫っていく事になる。

謎解き自体は特に凝ったようなものやひらめきに達成感を感じるようなものはなく特定のアイテムを特定の場所に置く等シンプルで簡単なものが多い。しかし中には説明不足だったり導線が弱くて何をしていいのか分からない謎解きやどこに行ったらいいのかもわからない状態に何度か遭遇することもある。そんな時はとりあえずしらみつぶしに色んな場所を行き来するのだが、部屋を出入りする度5秒近くロードを挟むので更にストレスを感じさせれる。

このゲームは正直な所、なぞ解きはあくまでスパイス的なものと割り切ってもいいかもしれない。どちらかというとホラーの奥から見えるストーリーにこそ面白さが集約されているので謎解きに詰まって辞めてしまいそうになるのならネットで攻略を調べて進めた方が全然いいと私は思う。

最初は謎だらけの世界に放り込まれる所から始まり、この恐ろしい世界が一体何なのか?なぜこの世界に放り込まれたのか?…徐々にプレイヤーに対して断片的に答えを出し後半にそれらのピースが繋がる仕組みだ。ネタバレを避けるため詳細は控えるが、ちょっとした驚きもありつつゲームを通してじんわりと切なくも深く胸に痛く刺さるメッセージ性は返校が高く評価される大きな理由だろう。

因みに開発者曰く、返校は白色テロ時代に過酷な生活を強いられた人々がいた事実を後世へと語り継ぐ思いを込めて作られているらしい。確かに物語の根幹に当時の台湾の政治情勢がしっかり絡んでくるので、白色テロ時代がどんなものだったかをさらっとでも理解しておいた方がよりこのゲームの持つメッセージ性が分かりやすいだろう。(下に簡単ではあるが白色テロ時代についての概要を記載)

【白色テロ時代さくっと解説】

1947年の二・ニ八事件から1987の間を台湾の白色テロ時代と呼ぶ。日本軍が去ったあと中国国民党の統治となった台湾では反体制派に対して厳しい処罰が行われていた。それどころか有能な知識人やリーダーは国民党統治の邪魔になるとして特に表立った行動はなくとも次々と処刑され、台湾の人々は思想の自由をも奪われ弾圧され続けた。返校は白色時代真っただ中の60年代で主人公ら生徒たちが国民党の検閲を通った本しか学校で扱ってはいけない事や自由な発想を持つ人間が反体制として処刑される等描写があり、当時の台湾の人々が窮屈で重々しい生活を強いられていたという事が読み取れる。

 

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